鼓動の理由

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 カーテンがゆらりと風で揺れると同時、シャーペンを動かすのを止めた。  古文のテキストはかなり進み、先輩が自力で解いたところの間違い探しも終わった。  ……そういえばテスト範囲を言い忘れていたけれど、ここら辺までで良いだろうか。    「最初は勢いで入ったというか……アレだったけど」  実際先輩といるのは、心地いい。  気持ちが和らいで、自然体でいられる。  白鷺(しらさぎ)琴音(ことね)という真っ白な心を持っている先輩は、ちょっと、いやかなりだらしのないところがあるけれど。  真っ白な心なぞ持ち合わせがない僕からしたら、否応にも惹かれてしまう。  捻くれをこじらせた僕でも、彼女の傍で写真を撮ったりデッサンをしたりすると、生きる活力が湧いてくる。  唯一の趣味であり特技である絵を褒めてくれるのも、先輩だけだ。    ……いつかは名前で呼んでみたい、なんて思うのは、あまりに高望みし過ぎだろうか。  「……ことね」  どこか大人しそうな印象がある、愛しく、可愛らしい3文字。  勝手に呟いただけで、トクトクと鼓動が逸る。  今まで「恋」をしたことがなくて最初は戸惑ってばかりだったけれど、一年経った今、なんとか慣れ始めてきた。  今では、毎日が楽しい。  ……ただ、今の現状に満足出来るかは……また別の問題だ。  我慢出来る方だと思って16年間生きてきて、ここにきて新発見。  先輩と出逢ってから、良くも悪くも色んな知らない自分を知ってきた。  ……いや、引き出されたのかもしれない。 ……ずっと先輩のことを考えていたら、なんだか恥ずかしくなった。 「……もう少し、解こうかな」 帰りが妙に遅いから、もう少し古文の世界に入ることにした。  
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