白色の君

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それから、少しして。 タッタッタッ、廊下を走ってくる音がこちらに向かってくるのが聞こえた。 あ、やっと帰ってきた‥‥と思っていると、教室の前のドアがガラッと勢いよく開けられ。 「愁、くん!!!」 「へぁ!? はい!?」 素っ頓狂な声が喉のどこからか出たが、これは不可抗力と信じたい。 ゼェハァと息を切らせ肩は上げ下げされ、頬は赤く上気している先輩の姿は、どう見ても只事ではない雰囲気だった。 「あの、あの、あのね!!??」 手に持ったビニール袋をガザガサ鳴らし、右手には紙袋を持って僕の机へと突き進んでくる。 待った、怖い怖い怖い。 「なん、何なんですか怖いんですけどあの!?」  「あのねッ」  ガサッと僕の机にビニール袋を置いてから、「ん!」と右手に持った紙袋を僕の前に突きつける。  わなわなと唇を震わせているけれど、目はキラキラしている。  ……どうやら、悪い知らせとかではないらしい。  紙袋を覗くと、丸筒と、長細い台形みたいなトロフィーがあった。  丸筒は卒業式とかに使われるアレなわけだけど……。  ……そもそも、このトロフィーは?  「……あの」  「優秀賞だったんだよ! ほら、さっき話してたコンテストの作品の! 」    興奮が引かないのか、空いた両腕で僕の両肩をバシバシと叩く。  パーソナルスペースなるものをまるで持っていないので、顔の距離が極端に近い、近い近い近い。  賞を受賞して嬉しい気持ちは勿論あるけれど、それよりも距離が気になって仕方がない。  名残惜しい気持ちを押し殺して、スッと先輩の腕を下げながら  「あの、ありがとうございます……えっと、これは先生から?」  「うん! 散歩部は当然顧問いないけど、学校名義で出してるから、職員さんが受け取ってくれたみたい!」  「そ、そうですか……」  「うん、ほんとに毎日ここで悩みながら唸ってたもんね! 写真も呆れるほど撮ったし!」  「う、唸ってはないですよ?」  テーマが「夏」というワードだけだったこのコンテストに応募するに当たって、先輩と 今年の夏の集大成として、全力で取り組もうと約束した。  僕にとっては、春ではなく、夏こそ「出逢い」の季節。  何を描くか散々迷ったが、結局、僕の頭から先輩は消えてはくれなかった。  そして――あんな「恥ずかしい」ものを描いてしまった。
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