プロローグ

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 「あの、白鷺先輩。 今日の部活内容って何ですかね?」  「いい質問だ、愁くん。 それはね……」  放課後、授業終わりの静かな教室。  窓の外はグラウンドに面していて、先ほどから途切れなく笑い声が聞こえてくる。  「うわ、当たった~」や「外野早く戻れ!」とかいう声から察するに、あれはドッジボール部だろうか。  それにしても、僕の部も言えたことじゃないが、いつ発足したのか謎だ。  「愁くーん。 意識すぐどこかに飛ばすのやめて~、悲しくて先輩泣いちゃうよ?」  「……正直、そのことで泣かせても痛む心は全くないです」  机に広げられたのは、数学と古典の教科書と問題集が、それぞれ2冊ずつ。  それと真っ白なルーズリーフが無造作に置かれている惨状をみて、純粋に今日の部活内容が気になったのだ。  「課題、手伝ってくださいませんか……」  「……僕、後輩のはずなんですけど?」  「い、いや後輩君。 これには訳があってね?」    先を視線で促すと  「この前のコンテストに向けての作品の制作に忙しくて! 進まなかったんです!」  「……なるほど。 僕も製作頑張りましたけど、テスト1週間前の今、課題は片付け終わりましたよ?」  「……描きたいお花が難しくて時間かかったの! 天才に凡人のアレコレは理解出来ないんですー」  「じゃあ、そのお花描かなかったら良かったのに」  「えぇ、でも妥協したくないし描きたかったし!」  「なるほど」  「だから、ね! 課題手伝って下さい!」  いつも通りの、まるで噛み合わない会話。  なぜ、そこから「だから」に繋がるのか。  「散歩部」ってなんだっけと思い返しながら、片手を額に当てる。  そして、自分のシャーペンを筆箱から取り出し、カチカチと芯を押し出した。  人生には諦めが時に大切であると、この先輩と一緒にいて身に染みるほど分かっている。    「……まずは、古典からやりましょう。 テスト範囲はどこからどこですか」  「ほんと、やってくれるの!? やった、私はほんと、いい後輩をもったよ!」    散歩に行けると知った子犬よろしく目を輝かせ、何をするかと思えば財布を持ち、「差し入れにジュースとか買ってくるから!」と若干スキップで教室を出ていった。  誰がどう見ても分かると思うが、彼女の中で罪悪感はゼロである。  
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