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「あ、ちょっと君!」
ぐいっとエナメルバッグを引っ掴まれ、強制的に視線を合わせられた。
……こうなれば、無視をする勇気を持ち合わせない僕の行動は一択しかない。
「……何ですか」
「これ、この傘、ちょっと持ってほしいの!」
開いたままのビニール傘を無理やり握らせ、その上から彼女の手が重ねられた。
そしてそのまま、向こうに見える積乱雲が丁度見える位置で、ぴたりと固定するように手を離される。
「……は?」
僕の間抜けな声を聞いてか、
「ちょっとだけ、そのままでいて!」
何が何だか分からないでいると、何が楽しいのかその女子は声を弾ませ、一眼レフをいじり始めた。
そして、シュバっと後ろに下がったかと思うと、なんと僕も含めてフレームに収めようとレンズを覗き込み始めた。
「は!? いや、何してんのですか!?」
思わず後ろを振り返って素っ頓狂な声を上げると
「わっ、ダメ、前向いてて! 時間ないから!」
「……はぁ……?」
もう疑問を通り越して怖くなってきたのだが、反射的に言われたとおりにしてしまう。
「よし、そのまま動かないでね」
もう撮られるのは確実だし、諦めよう。
もしかしたら、写真部の活動の一環なのかもしれない。
出来るだけ目立たずにいたいから写真の被写体になるとかかなり嫌だけど、この場から解放してくれるのであれば安いものだ。
と数秒のうちに考えていると、案の定、カシャリという音が後ろで鳴った。
「うんうん、ありがとう! おかげで納得いく構図が撮れたよ!」
傘を閉じながら振り向くと、先ほどより2割り増しくらいでの弾んだ声で言われ
「はぁ……良かったですね」
傘を差し出しながら言うと
「うん! 見てみて、すっごく綺麗でしょ!」
傘を受け取らないままに、見せてくれとも言ってないのに画面を向けられ、仕方なしに見てみて、驚いた。
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