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……え。
水彩画、デッサン?
「写真に撮った風景を、描いてるんですか?」
こくり、と頷きが返ってくる。
いや、僕も確かに水彩色鉛筆とか使ってデッサンしたりするけど。
わざわざ写真を撮って、というのが分からない。
「うん、何かの写真を放課後とかに自分で撮って、それをコンビニとかで現像して、空き教室に持ち帰って、自由にデッサンする」
人差し指をくるくると円を描くように回して、上機嫌で説明をしてくれる。
「この世界、普段は意識なんてしないけどさ、ホントは一瞬で移り変わってるんだよね。 一瞬でも、同じ風景が撮れることはない。 雲だって刻々と姿を変えて、太陽の光の入り方ひとつで、印象なんてガラッと変わる」
「だから、とっても楽しいの」
「自分だけの色を作って、その風景を再現したり脚色したりするのが、本当に楽しい」
カメラを大事そうにぎゅっと胸に抱き、微笑む。
背の低い彼女の上にある新緑の葉が風によってゆらゆらと揺れ、それに合わせて彼女の髪もふわりと揺れた。
「私が生きてる世界は、こんなに綺麗なんだなって思うの」
幸せそうな笑顔。
あどけなく笑った頬に、うっすらとえくぼが浮かぶ。
「真っ白」だ。
美しいものを素直に美しいと思える彼女を、僕はそう形容した。
同時に、ある欲求が湧きあがった。
「あの――」
からりと晴れた、夏の日。
新緑と白い入道雲が彩る季節。
ふわりと髪を薙いだ風に、背中を押されるように。
「――新入部員は、募集してますか」
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