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「おい!蒼夜、待たぬか!もっとましなものに変身できるようになってから行け!それじゃぁ下級の魔物にだって捕らえられるぞ」
大地を揺さぶるような魔王の怒鳴り声もものともせず、蒼夜は迫り出した崖にそそり立つ不気味な城から飛び立った。
グニャグニャ曲がりくねる枝が蔓延った森は、黒い影絵のように眼下に遠のいた。
地底界と人間界を繋げる異空間の空に浮かんだ雲の渦巻きの中へ、あっと言う間に消えていったカラスを見て、兄の深影が苦笑した。
「全く、蒼夜には困ったものだ。父上、私が蒼夜を連れ戻して参ります」
「うむ、頼むぞ、深影。最近ある天使が昇格試験のため、天界の小道具で人間の望を叶えて、神にその腕前を披露しているという。鉢合わせて蒼夜を諍いに巻き込ませぬよう注意せよ」
「御意。では行ってまいります」
言い終わらぬうちにボンと炎と煙に包まれた深影が、一瞬のうちに鷹に変わり、窓から外へと飛び出していった。
「おっ、あれなんだ?」
都市郊外にある住宅街の窓に反射した光に魅せられて、門柱に「新出」とかかった戸建ての庭木に降り立った蒼夜が1階を覗いた。
広いリビングの隣の部屋にベッドがあり、そこに女性が横たわっている。
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