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人の心を堕落させるのが悪ならば、こんな麗しい顔で迫られれば誰でも堕ちて当然と思わせる魔王と深影は、執務室で頭を突き合わせ、コーグレ一族の縄張りに飛び込んできた天使について話し合おうとしていた。
その頭上では、蝋燭の代わりに尻尾に火を灯した火ネズミたちが、前を走る仲間の尻尾の火を大きくしようとでもするように、口から火を吐きながら、シャンデリアの枠の上をハムスターのようにぐるぐると走り回っている。
ゆらゆら揺れるシャンデリアの炎が、うす暗い部屋の陰影を伸びたり縮めたりして不気味さを募らせる中、会議室に向かって廊下を走る足音が石壁に反響した。
「ぼっちゃまお待ちください。魔王様と殿下はお話中でございます」
執事のスケルトンが、袖から骨の腕を伸ばして、魔王の末っ子の蒼夜を捕まえようとしたが、寸での所で間に合わず大扉が乱暴に開けられた。
「なぁ、お父ちゃん、お外で遊んできていいか?」
「蒼夜、また人間界に行くのではなかろうな?兄、深影を見習ってきちんと魔界の勉強せぬか。深影が十歳のころはもう変身できたぞ」
「俺だってできるよ。ほら見てみ」
薄暗い城内のだだっぴろい広間の中央に、ボンっと一瞬、閃光と煙があがり、一羽のカラスが羽ばたいた。
「カァ~~~~(んじゃ、ちょっと行ってくる)」
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