内側に触れ合った放課後

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 唐突に、喋るラクダを主人公の高校に登場させてみた。そのラクダは主人公のクラスの担任にすることにした。前の担任は産休という理由で退場させた。ラクダの名前をステファニーにした所で一気に恥ずかしさがこみ上げてきた。生まれて初めて妄想を文章にした。これを読まれるなんて、裸の自分を見られるのと同じ気がして、胸の奥がくすぐったくなった。(あおい)もさっき絵を描きながら同じような気持ちだったのかもしれない。  少し読み直してみると、前の担任は男の設定だった事に気が付いた。消しゴムをかけようとしたけれど(あおい)の言っていた事を思い出してやめた。そうだ、これでいいんだ。ぐちゃぐちゃのままでいいんだ。筆箱から青ペンを取り出して『産休』の字をぐるぐる囲った。そして近くに『まちがえた!あとはお願い!』と注釈(ちゅうしゃく)を書いて終わりにした。 「できたよ」  (あおい)にそう伝えた。  『どれどれ』と言いながら近づいてくる(あおい)を見た瞬間、文章を書いていた時の恥ずかしさが、また心の内側で燃え始めてしまった。私はトイレに行くと言って教室から逃げ出した。薄暗い廊下に出てみるとグラウンドにいる運動部のかけ声や吹奏楽部の演奏が聞こえてきた。  中学の頃はテニス部に入っていた。部員も沢山いた。みんなに見られている中で空振りしたり、転んで尻餅をついたりもした。でもあの時より今この時の方が断然恥ずかしかった。たった一人にしか見られていないのに、なんでこんなに心臓が走ってしまうんだろう。きっと生まれて初めて小説を書いたからだと思った。     
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