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気分が悪い時、私は葵の書いた小説の主人公に容赦なく雨を降らせた。葵もイライラしている時は私の描いた絵の上に思いっきり緑色を広げた。それは誰かを殴ってストレス解消をするような尖った心地とは違っていた。裸の心を受け止めてもらえる安心感があった。
小説も絵もお互いの筆跡がぐちゃぐちゃに混ざり合っていった。それは奇妙な交換日記のようだった。
「何か悪いことをしよう」
夏の終わりに葵が言った。葵は時々、突拍子もない事を言う。でも私はそんな猫みたいな気まぐれさが好きだった。葵に振り回されるのは、二人で遊園地のコーヒーカップに乗っているようで楽しかった。
「壁に…落描きしてみたい」
そんな事を思いついた自分に少し驚いた。今までずっと小さなキャンバスにしか選んでこなかった。幼い頃から先生に怒られないように振る舞ってきた。はみ出す事が怖いと思っていた。
「おっ、いいねそれ!」
葵が目を輝かせてそう言った。
私たちはさっそく棚を移動して突き当りの壁をまっさらにした。
手を叩いてホコリを払いながら葵が言った。
「こういうのはやったもん勝ちだからさ。先生には言わずにやっちゃおう。どうせこの校舎壊しちゃうんだし、大目に見てくれるよきっと。事後承諾だ」
「ジゴショウダクってどういう意味?」
「やっちゃった後に許してくれ~って言うこと…かな」
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