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「そうなんだ。難しい言葉知ってるなんて流石だね」
「ありがと…。でも最近よく考えるんだ。もし私が世界中の言葉を全部覚えたらって。そうしたら納得のいく小説が書けるようになるのかなって…。本当の気持ちを伝えられるのかなって…。多分出来ないと思う。そういうのとは違う気がする。うまく言えないけど…」
壁を撫でながら葵がそう言った。少し寂しげな横顔だった。
「それ、分かる気がする。私も写真みたいに正確に絵を描けるようになったら、どうなんだろうって、よく考えたりする…」
私もそう言って壁を指先で触ってみた。爬虫類の肌のようにデコボコな感触だった。
少し嘘をついた。絵が上手くなりたい。納得のいく絵を描けるようなりたい。その気持ちはあった。でもそれ以上に、葵と一緒にいたいという気持ちが絵を描く原動力になっていた。
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