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初めてお互いの作品にラクガキし合った時のあの胸の高鳴りは、静まることなく私の中でくすぶり続けていた。そして時々、葵の見せる何気ない仕草を引き金に心の内側をどうしようもなく掻き毟っていた。葵の書いた文章に落書きするたび、私の描いた絵が落描きされるたび、体は熱病のように赤くなった。好きという気持ちは厚みを増していった。
その頃にはもうラクガキ用のキャンバスもノートも一杯になっていた。キャンバスは美術室の壁に、ノートは継ぎ足しの出来るリングファイルになった。私たちのラクガキは少し大きくなった。
私はハケを手に取って壁に最初の大きな絵を描いた。葵が最初に落描きしてくれたあのハートマークを描いた。今度は自分の好きな青色の絵の具を使った。
顧問の先生には思ったより怒られなかった。葵の言っていた通り、取り壊しの決まった校舎の壁という理由で大目にみてもらえた。私たち以外にもう部員は増えないことは、先生も感じているようだった。
嬉しかったけど、少し寂しかった。私たちがこの学校を旅立っていった後、この美術室はブルドーザーやショベルカーでぺしゃんこになる。私の抱えている葵への想いもきっと、一緒に土の下に埋めていくとになるんだと思った。それを受け入れられるかどうか、自信がなかった。
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