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それから私たちは少し悪い子になった。旧校舎の空き教室を回っていろんなものを盗んで美術室に運び込んだ。小さな脚立を手に入れると、壁の上まで絵を描けるようになった。電気ポットを見つけたおかげで暖かい飲み物を飲めるようになった。先生が使う座り心地のいい椅子も拉致してきた。葵が足、私が背もたれを持って二人で一脚ずつ運んだ。まるで死体を運ぶギャングにでもなったような気分だった。窓にはめる古い形のクーラーは大きすぎて断念した。
私たちの場所がまた少し居心地の良いものになった。
ある日、葵が『家電の匂いがする~』と言って戸棚を開けると、そこにCDラジカセがあった。葵は家電に対するなんだか不思議な嗅覚があった。電気ポットも葵が見つけた戦利品だった。
ラジカセの中には教材用のつまらないCDしか入っていなかった。でもイヤフォンのコードが一緒になっていたので、携帯と繋げられると分かった。
葵がラジカセと携帯を繋いだ。少しするとラジカセの小さなスピーカーから切なげなピアノの旋律が流れてきた。夜を連想させる大人が聴くようなジャズだった。少し意外だった。もっと元気のある音楽を聴いていると思っていた。
葵は言った。
「歌詞がある曲って苦手なんだ。言葉と演奏が同時に入ってくると混乱しちゃう」
「これ何ていうアーティスト?」
「ビル・エヴァンス…これを聴きながらバスに乗るのが好き」
彼女はそう答えると、恥ずかしそうに携帯の角を撫でた。
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