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窓から差し込む夕焼けが、板張りの床に古い机の影を落していた。日は少しずつ長くなり、校庭の桜は緑に染まりつつあった。春がもうすぐ終わろうとしていた。
そんな何気ない放課後だった。
「ねえ泉、絵って私にも描けるかな?」
葵が唐突にそう聞いてきた。彼女の方を見てみた。こちらに顔を向けず、机に広げたノートをじっと見つめている。文字を書く手は止まっていた。
口に出して話をしたことはなかったけれど、お互いの作っているものに触れ合わないという暗黙のルールが私たちの間にあった。他人に干渉されるのがあまり好きではない性格の私にとっては、それは心地よい平行線だった。同じ空間で一緒に過ごす葵もそう感じていると思っていた。
まさかそんな言葉が飛び出すと思っていなかった私は、驚きのあまりしばらく黙り込んでしまった。
ふと、葵が初めてこの美術室にやってきた日のことを思い出した。
それは去年の冬だった。例年の倍くらい降った雪が、校舎や通学路を真っ白く染め上げていた。元気な生徒達が校門横に門番のような大きな雪だるまを作っていた。私も雪をテーマに絵を描いていた。
その日も夜にかけて天気が崩れると予報があり、私は少し早めに帰り支度を始めていた。
ドンドンドン
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