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私は頭の中で思っていることを言葉にするのが少し苦手だった。友達と話をしていても、私が喋る時だけ二、三秒間が空いてしまう。私はこの物語にどんな未来を付け足していいのか分からなくなってしまった。
それに、葵のノートを見て、作品には作者のデリケートな部分がいっぱい詰まっていることを改めて実感した。このノートは葵の心の内側そのもの。そこを直接触っていいんだろうか。今更ながらラクガキがすごく悪いことのような気がし始めた。
なかば頭を抱えていた時、葵の明るい声が聞こえた。
「できた!」
キャンバスを覗きに行ってみた。すると想像していたより大きくて思い切った落描きが目に飛び込んできた。私が描いていた静物画を完全に無視して、真っ赤な線でキャンバスいっぱいにハートマークが一つ上描きされていた。てっきり隅っこに小さな棒人間でも描くぐらいだと思っていたので、素直にびっくりした。
葵の赤いハートマークには大きな熱があった。それは私が抱えている悩みやウジウジした気持ちを否定する事なく、ひとまとめにして包み込んでくれるような、そんな大きな熱。私は胸が暖かくなった。
葵が言った。
「どう?私の処女作」
「…自由な感じが、葵らしくて…いいなって思う」
「ありがと…」
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