内側に触れ合った放課後

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 (あおい)とこんな話をするのは初めてだった。いつもは『電気消すね』とか『そろそろ帰ろっか』のような当たり障りのない話しかしてこなかった。絵や小説に対する話題は相手の気分を悪くするだけ。邪魔をするだけ。そんな先入観がお互いにあったんだと思う。  彼女は小説、私は絵。別々の方向に進んでいると思っていたけれど、実は同じような悩みを抱えていたんだなと思うと、(あおい)が少し近くに感じられた。同じ教室で二人きりで過ごしてきたのに、全然気がつかなかった。  (あおい)が私の方を向いた。目が合った。ほんの数秒。まばたき二回するくらいの短い間、私たちは見つめ合った。少し(うる)んだ(あおい)の目が夕焼けのオレンジを(つや)やかに反射していた。目が合うのはこれが初めてというわけじゃなかった。でもすごく特別な感じがした。(あおい)の涙を見てみたいという気持ちが唐突に湧きあがった。嬉しさや切なさ、そういう強い感情を溢れさせている彼女の姿を見たいと思った。  キャンバスに視線を戻した(あおい)が口を開いた。 「だから、息抜きだと思ってさ、私の小説もぐちゃぐちゃにしちゃって、いいよ」  私は(あおい)の席に戻って、もう一度小説と向き合ってみた。正直な気持ち、ホラー小説は気乗りがしなかった。絵を描くことに行き詰っている時に、怖い話を考えるなんて余計に窒息(ちっそく)してしまいそうだった。私はシャーペンを握って書き出した。     
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