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暁がでてすぐ俺もオフィスをあとにして、近くにある花屋に向かう。
「すいません。撫子の花を」
「はい、どうぞ」
注文を頼んだ瞬間渡された花束に一瞬体が固まる。
そんな俺の動きの意味を気付いたのか
「毎週きてれば覚えますよ」
フラワーショップ華野の店主、柊さんはクスクスと笑いながら俺に花束を手渡してくれた。
さすがにそうだよな。
毎週同じ花束を買う30過ぎのおじさんなんて目立つに決まっているからな。
「ありがとうございました。また来週」
店の客に対する挨拶なのか?と少し疑問に思うが、来週もどうせ俺はここに来るのだから間違いではない。
ただこうしてここに通う期間が長ければ長いほど俺の願いは叶ってないことが目の当たりになるのだからあまりいい気分ではなかった。
真っ暗にした部屋。
月明かりだけがこの部屋に光をもたらしている。
ベッドの横に設置されている棚に花束をそっと置いてベッドに横たわる彼女の髪に手を伸ばす。
「早くおきろよ」
目を覚ますことのない彼女から返事が返ってくることはなくて、いつになれば彼女は俺に笑いかけて、俺の名前を呼んでくれるのか。
ーーーーーー十年という月日は経ってみるとあっという間で、だけど、もう十年という月日はとても長いものだった。
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