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「ケーイチ君、ちょっといい?」
ケーイチはクラスメートの高松に小学校の手洗い場で声をかけられた。
「何? 高松君」
「ケーイチ君は、なんて言われると傷付く?」
「うーん…………、死ねかな」
“死ね”
ケーイチは耳を疑ったが、空耳ではない。高松は確かに“死ね”と言った。小学6年生とはいえ、ケーイチは手洗い場で立ちすくんでしまう。
『何でそんなことを言うんだよ!』とは、ケーイチの口からは言えなかった。引っ込み思案な性格だからだ。しかし、ケーイチは1つの事に集中する力がある。そのため、悪い噂に耳を傾けると、それに集中してしまう。
“アイツ、小3の時にかけ算もできなかったんだぜ~”
“あのバカ。また、風呂に入ってないのか”
“ケーイチ君、キモいよ”
他人が言ったか、ケーイチ自身の脳内再生か。その両方だろう。
ケーイチは嫌われてる。それはケーイチ自身が一番分かっていて、一番認めたくない現実だ。
――体育の授業。ケーイチ達のクラスは体育館でバスケットボールをする事になった。ケーイチは相手からボールを奪い、ドリブルし、軽々とレイアップシュートを決める。時間を忘れ、相手チームを叩きのめす。それを僻んでるのが、バスケットボールクラブに所属する高松と遠山。
ケーイチのチームが得点を入れて、ケーイチは後退りしてチームのディフェンスをしようとした時、遠山がケーイチの背中に体当たりをする。イジメだ。しかし、ケーイチはここでも、やり返したり、言ったりできなかった。
担任の教師、荻野に言おうとしたが、ケーイチは溝を感じていた。躊躇う。そもそも、荻野と信頼関係にない。荻野は、ケーイチのことをマザコンと呼んでいた。こんなクズの担任をどう信頼しようというか? それはケーイチには無理だった。どうせ、イジメを報告しても、揉み消されるだろうと、子供心に思った。
ケーイチと仲の良いクラスメートもいたが、気が小さく、表立ってイジメを止めようとしなかった。自分がターゲットになるのを恐れていたからだ。
次第にケーイチは人間と信頼関係を築けなくなった。唯一の楽しみは、モータースポーツをする事。毎日、レースゲームをプレーしていた。母親にカートを運転してみたいと言うと「うちは貧乏なのよ。そんな余裕はないわ。それに危ないでしょ。柔道をしなさい」と訳の解らない返事が来た。
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