*石を持って産まれた子*

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「エルフレット……っ、待って……っ」 始まりの地廃火山の祭殿に辿り着くなり、リリーは先ほどから強くなるお腹の痛みに堪えきれずその場に立ち尽くしてしまった。 「リリー!、大丈夫か!?」 「……産まれそうなの……っ……!」 「―……そんな……、この場所で……っ」 リリーの言葉にエルフレットも焦りが募り、冷静さを欠いていく。 「……祭殿奥に空洞が出来てる、そこには湧き水もあるわ……、そこでこの子を産む……」 「リリー、どうして分るんだ?」 「呼ぶ声がするの、私達を呼んでる……」 痛みが極限まで張り詰めたのだろう、リリーはふと熱に浮かされたように立ち上がり、驚きを隠せないでいるエルフレットの手を借りて祭殿奥の暗闇へと足を進めて行った。 例年であれば祭殿の手前に開けた処が歌会始の締めくくりとなる詩合わせを行う場所となる。 リリーはそこを通り過ぎ廃火山の奥へと続く空間へと進んだ。 未だかつて立ち入った事のない廃火山の中心部に辿り着いた時、リリーの言葉通りに空洞となる空間が現れ、湧き水の清らかな音と岩間から外の新鮮な空気が流れ込む大気の音とが2人を迎える。
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