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陣痛の痛みにうめくリリーの手を握り、額に光る汗や涙をぬぐってあげる。
さらには時折腰をさすって痛みが少しでも和らぐようにとエルフレットはリリーを励まし続けた。
どれくらいの時間がたったのかは分らない。
ふと耳を澄ますと、自分達が入ってきた空洞の奥―入口の祭殿からキオエン達が春分祭最後の詩合わせを始めた音色がかすかに聞こえた。
これから夜が明けるまでただひたすらに、降りてくる音を言葉にして祈り詠わなければならない。
気づけばエルフレットの口から子の誕生を願う詩が零れていた。
リリーと同じく若くして吟遊詩人となったエルフレットは、最高位の吟遊詩人9人の中でも上位の力を持つ。
芯のある低く安定した心地よい詩声が空洞の空間を包み込むようにして響き、その声に安心したのかリリーのうめき声が落ち着いていく。
陣痛に波があるようで、痛みが少し和らぐとリリーも生まれようとするお腹の子供への詩を口ずさんでいた。
「―っ、痛い……っ!」
思わず叫ばずにはいられないほどの痛みがリリーを襲い、リリーは歯を食いしばってお腹に力を籠める。
緊迫した時間の中で、エルフレットはハッと我に返りいつの間にか詩が止まっていたのに気づいた。
「リリー、頭が出てきた、あともう少しだ!頑張れ!」
広げたリリーの脚の間から胎児の頭が出てきているのを確認し、エルフレットはリリーに声をかける。
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