*石を持って産まれた子*

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痛みで悲鳴が絶え間なく喉から零れ、それでも子供の誕生を願ってリリーは必至で呼吸を整えお腹に力を籠める。 最後の力を振り絞って渾身の想いで力んだ時、胎児が誕生した事を実感させる赤子の泣き声が空洞に響いていた。 「リリー、よく頑張ったね。女の子だよ!」 へその緒をナイフで切り離し生まれたての赤ん坊を用意していた布でくるみ、ただひたすらに無心で誕生の産声をあげて泣く赤ん坊をリリーの腕に抱かせる。 リリーは長い時間痛みに耐えた疲れ切った顔をしていたものの、エルフレットが抱かせてくれた我が子の産声と温かい重みに瞬間で愛おしさと慈愛に満ちた表情で小さな命を抱きしめていた。 「あぁ……、愛しい子……。よく生まれてきてくれた……」 感極まってリリーの瞳から涙がこぼれ頬を伝って赤ん坊の額に落ちる。 エルフレットは無事に子供が産まれ、そして喜びの涙で赤ん坊を抱きしめるリリーを心からの安堵で静かに見つめてようやく、遠くに聞こえる朝鳥の鳴声と岩間から吹き込む風が朝特有の湿気を帯びたものに気づいて夜が明けた事を悟った。 「そういえば……その子は石を持っていなかったな、リリー」 ふと気づいて危惧していた赤ん坊の小さな手を見つめる。 「……手ではないの。エルフレット。……この子は石持つ子よ」 エルフレットの言葉にリリーは穏やかな表情のまま首を横に振って、赤ん坊の首を指示した。 まだ赤い斑点が残る小さく柔らかい首に、見たこともない紅く輝く小さな石が身体の一部となって首回り一周を等間隔で並んでいる。 「―そうか……。石持つ仔はこういう事か……」 吟遊詩人の始祖とされる一族の末裔であるリリーの元に産まれた赤ん坊が、吟遊詩人たらしめる声を発する場所―喉に石を持って産まれた意味が口にせずとも察する事が出来る。
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