2人が本棚に入れています
本棚に追加
「石って……。今年の祈り詩になる……」
「―そう。創生の詩で語り継いでいた事が現実になろうとしているのよ。この子は私の子であって私の子ではない。生まれなければいけない子。何が起こっているのか……分からないの……っ」
吟遊詩人の力を持って産まれ、人とは違う言葉の力を持つがゆえに始まりの地の言葉の恐ろしさを知るリリーとエルフレットは、華やかな音楽と人々の平和な喧噪からかけ離れた空気に囲まれていた。
「―……リリー、逃げよう。ここにいては君はおろかお腹の子もどうなるかわからない」
「エルフレット、でも……っ」
「最後の祈り詩が始まれば全員が気づいてしまう。その前にせめて宮殿からは出るんだ。君とお腹の子がせめて安全を守れるように協力するから」
怯えきったリリーに、エルフレットが強い意志をもってそんな言葉をかけると、リリーは覚悟を決めたように頷く。
「僕が産まれた時、僕は吟遊詩人の力を持っていてすぐに師匠の元に預けられた。僕の運命を視た師匠は言ったんだ。守る女性と子供がいる。その子供は全ての命運を握る子だと」
賑わう人々に紛れながら、エルフレットは隣を歩くリリーに自分の運命を語った。
吟遊詩人は己の出生や師匠から与えられた初見の詩をむやみに口外しない。
「守る女性はリリー、君だ。そしてお腹の子供がその子なんだよ」
最初のコメントを投稿しよう!