*石を持って産まれた子*

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時折襲う腹痛に歩みを止めるリリーを気遣いながらも、エルフレットは行きかう人々の目を欺いて宮殿の裏口へと突き進んでいく。 「リリー、始まりの地へ廃火山の祭殿まで行こう。そこに行かなければいけない気がする」 「うん。私もそこに行かないといけないと思ってる」 まるで導かれるように、リリーもエルフレットもお互いに目的地を定めて裏口から人目を忍んで始まりの地、廃火山の祭殿へと足を向けた。 リリーとエルフレットが宮殿を抜け出した丁度その頃、詩番の出番を伝えにリリーがいた部屋に訪れた衛兵がリリーの不在と置手紙を知り祭りの祭司の処へ報告に上がっていた。 「ふむ……リリーは体調不良で座を降りると。身重であったし今は身体が一番だな。致し方あるまい」 祭司からトゥース国王にリリーの詩番辞退を聞き入れ、国王は残念な表情を浮かべつつもリリーをいたわりそれを了承する。 「吟遊詩人の皆よ、リリーの詩は今宵聞けぬが祈り詩を始めてくれ。この一年の行く末を教えて欲しい」 賢帝として名高い国王が場をとりなすように声をかけると、広場に集まっていた吟遊詩人達は互いに顔色をうかがいながら所定の位置に座していく。 五大公国が収める昼と夜が交わる地で、力ある吟遊詩人として認められる者達はこの場にいないリリーやエルフレットを合わせて9人。
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