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本来リリーが座る席が空席なのは仕方ないにしても、エルフレットの姿も見えない事に観衆がザワつくがトゥール大公国の宮廷詩人のキオエンが祈り詩の旋律を奏でた。
吟遊詩人達が始めた語り詩と各々が持つ楽器の音色は不思議な音色となって観衆を引き付ける。
語り始めた吟遊詩人の言葉を遮るのは禁忌とされるがゆえ、始まってしまった音を止めることは出来ない。
宮廷詩人のキオエンが始めた祈り詩に他の吟遊詩人達も追従し力強い詩となった時、その場の誰もが語られた詩の意味を知り愕然とした沈黙が祭りの雰囲気と裏腹に流れていた。
「―……キオエン、エルフレットが到着していないのに、なぜ急に祈り詩を始めた」
語り終え沈黙が訪れる宮殿の広間で、トゥール大公国国王は召し抱える宮廷詩人のキオエンに声をかける。
この場に集う7人の吟遊詩人達は皆一様に表情に翳を落としつつ、年嵩のキオエンを気遣うように彼の周囲に集まった。
「……我ら吟遊詩人は詩が降りてきたら詠わなければなりません。私が詠い始めなくともここにいる誰かが詩を始めたでしょう。……止めることは出来ないものでした」
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