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関羽も仕方なしと酒を受けた。
劉備は張飛の乱暴な面も懐かしさから見逃してやることにし、酒を貰った。
とはいえ、見逃すのは今日だけである。
「……え?」
酒が十分行き渡ったところで、三人は円陣のように向かい合った。
場所は潁川のはずれにある小さな桃園。
あの頃の裏庭を思い出す。
筵売りから始まった青年の大志はやがて大陸全てを巻き込むこととなった。
胸に漢室復興の夢と、修羅道へと向かう覚悟。
そして、野心――
幾多の思いが三人を駆け巡った。
そして、全ての思いが重なった時、三人は声を合わせて言った。
「我ら三人、生まれし日、時は違えども兄弟の契りを結びしからは、心を同じくして助け合い、困窮する者たちを救わん。上は国家に報い、下は民を安んずることを誓う。同年、同月、同日に生まれることを得ずとも、同年、同月、同日に死せん事を願わん!」
かつて果たせなかったその誓いは、酒とともに再び三人の胸へと流れて行った。
屋根もない桃園の木の下、たった一瓶を三人で少しずつ分け合って飲んだ。
「足らぬ」と張飛が嘆くのを見て、劉備、関羽は笑った。
珍しく関羽が自ら武技を披露してみせたりもした。
金も地位もなくとも心は充実していた。
そして、希望があった。
拾ってきた薪で焚火を行い三人で囲み、その晩は、過去の思い出や時にはほかの二人が知りもしない出来事を話したりもして盛り上がり、夜更けまでその日は話し込んだ。
後漢末期、戦国の世となるこの時代、こんなにも純粋でこんなにも深い絆を持った義兄弟はきっと他にいないだろう。
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