盤古

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――ただ。 一つだけだが例外があった。 かつて三国鼎立の時代を生きた群雄達。 その魂にはいまだ、魂の安らぎが訪れていなかったのだ。 戦場を無尽に駈けた勇猛な魂。 それは死んだ肉が蟲に食われ、骨が土にかえってもなお、魂は戦地にあり続けた。 それは生涯を捧げた君主を失ってもなお、その魂は忠義を貫き通した。 それは時代が終わってもなお、主の帰還を待ち続けた。 創造神盤古(そうぞうしんばんこ)、この世界の創造主である。 彼はこの幾千幾万にものぼる魂に悩まされていた。 彗星の如く天へと流れていく魂のなか、彼らのみそこにあり続けたからだ。 そしてその魂の群れは殆どは、たった三つの魂にそれぞれ集まっていた。 おかげで天が大きく三つに分かれている。 加えてその魂はそれぞれ人並み外れた知、徳、才を持っている。 創造神は頭を抱えた。 こうなってしまえば、道は一つしかない。 創造神盤古、右手を伸ばしてその三つのうちのひとつを持ち上げた。 左手にその魂の肉体を甦らせ、そこに魂を注いだ。 やがてゆっくりと口を開く。 「目覚めよ……」 創造神盤古、口が開いたと同時のこと。 その言葉とともに、一瞬で肉体に着物と剣が着せられた。 魂は男だった。 七尺五寸ほどの背丈で穏やかな目をしているほか、眉は秀で口はかすかに笑みを含み、総じて聡明そうな男だった。 (漢代では一尺およそ23.09cm七尺五寸だとおよそ173㎝) 男はタク県の者で劉備(りゅうび)(あざな)玄徳(げんとく)と言った。 「目覚めよ……」 劉備は創造神盤古の言葉に僅かながらぴくりと反応した。 動きが鈍い。 ただこの劉備、年若い。 没したのは齢六十三であったと言うが、この劉備は肌に潤いがあり、髪は鴉のように黒かった。 着物は男伊達を気取ったような紅の衣服を着ており、腰には一対の剣をはいている。 再び創造神盤古は口を開く。 「目覚めよ……」 その声に劉備は寝苦しそうに眉を顰める。 「目覚めよ……」 「んん……うるさいぞ翼徳(よくとく)」 寝言のように言う。 「目覚めよ……」 「わかった、わかった、少しでいいから寝せてくれ。今はそういう時ではないのだ」 「むうう……」
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