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春風が舞い木々は揺れ、花弁は旋風のように咲散る。
平原、荒野には肌心地のよい湿った空気が漂い、青々とした落ち葉と雑草の道。
それが穎陰の外門まで続いていた。
そこへどっどっど。
蹄音を鳴らして軍馬の群れが走る姿が見られる。
呂布の率いる俊足の騎馬隊。
董卓軍自慢の精鋭部隊の一部である。
この騎馬隊は、呂布の義父である董卓からの任で洛陽から穎陰に向かうところである。
この呂布の部隊は董卓の軍でも屈指の実力、特に呂布と副将の張遼は負け知らずの武勇を誇っている。
その威厳も堂々たるもので、隊が動くだけで民衆は怯えた目を向けているようだった。
さて、その呂布隊が道も半ばに差し掛かった頃、隊の物見にこういう知らせが届いた。
「将軍。左手の丘の方より劉家の旗印、との事です」
副将の張遼はすぐに駒を寄せ、この兵の知らせに応じる。
「兵の数は?」
「だいたい五百程の歩兵隊との事」
「劉と言う姓の将に心当たりは?」
「反逆者の隊列から推測するに、やはり劉表、劉焉あたりではないかと……」
「劉表、劉焉か……ううん、しかしな。情報では二人とも動く気配はなかったと聞くが――」
「ですが本当に劉の旗印が見えておるのです」
「それはわかるが……」
張遼らがそう話していると不意に、
「違うな。おそらくそれは劉備のことだろう」
そう傲然とした態度で言う者がいた。
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