梅林にて

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声を聞くと同時、張遼以下の兵達は姿勢を正した。 声元へ振り向くと、その者、宝物のように豪華な鎧。 手には龍の如き装飾を施した得物、方天画戟(ほうてんがげき)を握っている。 また、赤い艶のある大きな汗血馬で兎のように素早いといわれる赤兎馬に跨っていた。 身の丈が兜と合わせて一丈程※もある巨漢で、眼光鋭く、石像のような顔と体格をした、総じて豪壮な佇まいの将である。 (漢代では一丈およそ2.309m) 即ち、この男こそが万夫不当の豪傑と言われる呂布、字を奉先である。 呂布は并州五原(へいしゅうごげん)の人である。 この呂布は董卓の将となる前は丁原(ていげん)に仕え父子の契りを結んで重用されていたが、董卓に唆され丁原を斬った裏切りの男である。 しかし、戦では勇敢なうえ無類の戦上手と言われるほどで、漢の李広(りこう)に準えて飛将と呼ばれる武将でもある。 呂布は前方の敵部隊を見つけるなりにやりと笑うと、 「皆の者、一旦停止しろ!張遼と李献(りけん)は俺の傍に寄れ!奴等に目に物見せてくれる」 勇壮に命じた。 横の副将、李献は呆れ顔で言う。 「いいんですか将軍?こんな二百騎足らずの少数部隊で迎撃なんて……大体今の足なら簡単に逃げ切れましょうに」 「逃げる? フハハ、世迷言を……この呂布には方天画戟と赤兎馬があるというのだ。逃げる訳なかろう。なあ張遼?」 「は、はあ……」 副将の張遼は曖昧に言う。 「よし、迎撃態勢をとれ!劉備その他の者の首は俺が獲ってやる!」
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