闊歩する女

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 まもなく午後十一時になるとき。  パソコンの画面と睨みあうBさんの耳に、こつ、こつと何かを叩くような音が聞こえた。打鍵に紛れていたが、異質な音だった。  キーボードから手を離し、顔を上げる。何かと問われたら、彼女の履いているヒールやミュールの音に似ていると思った。こつ、こつ、近づく。誰かが近づいてくる――靴音と認識したからか、そんなふうに感じる。  自分以外に残っている従業員はいなかったはずなのに。Bさんは暗いドアのほうを、疲れた目を眇めて見つめ、ふと気づいた。    このフロアは廊下も含めタイルカーペットが敷きつめられていて、歩く音はほとんど吸収されてしまう。  歩いて靴音が鳴るのはトイレか給湯室くらいだ。いくら夜更けで静かとはいえ、離れた執務エリア内には音が届くことはない。  じゃあ、靴音ではない。  なら、なんだ。指を折り曲げ、関節で机を叩いてみる。やはり違う。どちらにしたって鳴らす誰かがいなければ音は鳴らないのだ。  Bさんは原因を突きとめようと立ち上がり、あんぐりと口を開けた。
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