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女が天井を歩いていた。
グレーのパンツスーツで、髪はセミロング。真一文字に結ばれた唇が、横顔をきりりと見せている。
女の履くヒールが、天井を華やかに鳴らす。
先ほどまで怪しく思っていた音が……事実、奇怪な光景であるはずなのに、とても耳に心地よく感じた。
まるで足裏が吸いついたかのごとく、しかし不思議なことに髪はだらりと垂れさがることなく、暗がりなのに、髪が女の肩をさらさらと撫でている様子や、歩くたびにスーツの裾がひらりとする様子まではっきりと見えた。
仕事のしすぎで頭がどうにかなったのだろうか。
そんなふうに考えるBさんは、その場に立ちつくしたまま、女が歩いて、自分の目の前を通り過ぎてゆくのを見つめていた。
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