<後編>

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 もう何年も、外を走り回っていないのです。精々この部屋で、寝ていない時間にDVDを見てストレッチをしたり、買ってもらった運動器具を使うことしかできていません。  いい加減、走りたい。もし私の病が感染するようなものでなく、そして治る見込みがないものなら――最期にたった一度だけでいいから、その願いを叶えてほしい。  その日を境に、私の中で抑え込んでいたその感情がじわじわと膨らんでいくのを、止められなくなりつつありました。 『よ、早苗。今日も遊びに来てやったぞー喜べ』  ここ最近は、遊びに来てくれる友達の数も減りつつありました。  相変わらず千夜は笑顔で訪問してくれますが、小学校や近所のお友だちはあまり来てくれなくなっていたのです。  何故みんな遊びにきてくれないのか、と訪ねると。 『いろいろあるわなあ…引っ越した奴もいるし、忙しくなった奴もいる』 『え、誰か引っ越しちゃったんですか?』 『ああ。水上先生も転勤になって県外に行っちゃったし、坂本や国枝は親の都合で引っ越したっけな。…それ以外の奴は試験勉強に追われてんじゃないなと思うぜ。通信教育のお前は知らんだろうが、中学校には恐ろしい難敵がいるんだ。そう、中間テストと期末テストという恐ろしい悪魔が…!』 『中間テスト?期末テスト?』  なんでも、中学生はそれらの大きなテストでいい点を取るため、死ぬ気で勉強するのが当たり前らしいのです。一週間前からテスト期間に入り、部活動も禁止になり、全校生徒が死ぬ気で勉学に追われることになるのだとか。 『あーそっかぁ。お前にはテストの話をしたことなかったのか。…いやそのな。俺が思い出したくなくて話題を避けてただけとも言うけどな』  少し明後日の方向を見ながら彼は言いました。 『まあ、お前ならきっと中学に言っててもいい点取れたんだろうさ。小学生の時のテストで百点ばっかりだったもんな早苗は。あー羨ましい。テストなんて滅べー滅んでしまえー』 『なるほどなるほど。千夜はそのテストで酷い点を取ってばかりいる、と』 『そ、そんなこと一言も言ってないだろ!?邪推すんじゃねーよ!』  少しずつ、違和感が大きくなる世界。  噛み合わなく成りつつある、歯車。
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