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『そのテストでさえ、受けてみたいと思う私は…おかしいんでしょうか……千夜』
私の言葉に、千夜は何も言ってはくれませんでした。
死ぬのはもう、怖くない。諦めています。でも。
最期に好きなものを見て、この眼に焼き付けて死ぬことが出来たら――どれほど幸福であることでしょうか。
それがたとえ――お母様とお父様の言いつけを破ってしまうことだとしても――私は。
***
そして。
その日は――なんの前触れもなく、訪れたのです。
『……あれ?』
それは、もうすぐ中二の春になるという頃。
もしも私の記憶通りなら、外ではそろそろ桜が咲き始める時期だったはず、です。
いつも通り七時に起きた私は、いつもお手伝いさんが運んでくれる朝食が用意されていないことに気がつきました。私は部屋から出ることが許されていないので、朝食はいつも私が起きる前に部屋の中に運ばれているのです。
それが、ない。もしかして用意してくれるのを忘れてしまったんでしょうか。困りました。私が呼び鈴を鳴らしてお手伝いさんを呼ぼうとした時――何故か、図ったようなタイミングで現れたのはまったく別の人物だったのです。
そう、千夜が。私の朝食のお盆を持って部屋に入ってきたのでした。
『お前の飯。テーブルに乗ったままになってたから、俺が運ばせてもらった。サンドイッチ山盛りだぜ、一個くらい俺にわけろよ。俺も朝飯食べてないからさ』
何故、彼が此所にいるのでしょう。朝から家に来ることも別に千夜ならおかしくはないのですが。
心なしか、彼の顔色が悪いことが気になりました。朝御飯を食べていないと言いながら、私の六つあったサンドイッチを一つ食べただけで終わらせました。いえ、元々彼はそこまで大食漢でないことは私も知っているのですが。
『今日は…外がやけに静かですね…』
『……そうだな』
『あの、お手伝いさんはどこに行ってしまったんでしょう?それにどうして千夜が?次に来るのは明後日って言ってませんでした?』
『ああ。言ってたな』
『…………千夜?』
胸の奥から、ざわざわと何かが沸き上がってくるのを感じます。
私は。
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