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全てが終わったその時――私は中学二年生くらいの年齢、であったと思います。
何故そんな曖昧な表現になるかと言えば、私自身自分の時間の感覚がかなり曖昧になってしまっていたからです。小学校の卒業を待たずして、私の世界は小さな一室のみに限定されてしまいましたから。もう、随分と昔のことになります。
元はお茶菓子を作る、大企業の一人娘であった私です。ああ、申し遅れました。私、名前を“牙山早苗”と申します。大企業、牙山銘菓の…ああ、ご令嬢、なんてことになるんでしょうかね?
大事に大事に育てられた私は一種の“箱入り娘”というものだったのですが――お嬢様の私立小学校ではわりとやんちゃで、お転婆な方だったと思います。親の前であまりはしたない真似をすると叱られてしまいますのですが、学校ではかなり派手なこともしていましたね。そのへんの男の子よりも体力があり、元気が有り余っていて身長もそれなりだったもので…木登りも砂遊びもアスレチック鬼もやたらとやる子供でした。
勿論お嬢様ですから、たしなみというのも忘れてはいけません。家の習い事は、結構頑張ってこなしていたつもりです。お茶屋さんですからね。一昔前のようと言われるかもしれませんが、茶道や花道、三味線などは一通り。特にそれも苦ではありませんでした。新しいことを学ぶのは、私にとってとても楽しいことでしたから。他にもピアノとか水泳とか…本当に、よくこんな娘にお金をかけてくれたものだと思います。
その私の生活が一変したのは、私が小学校五年の終わりに差し掛かった頃…でしたでしょうか。
健康診断で、何か気になることがあったらしく。私は学校帰りにいつもの車に乗せられて、病院に連れて行かれました。そしていくつかの検査を受けて、やがてこの――何年も過ごすことになる部屋に連れてこられて、言われたのです。
『早苗ちゃん、落ち着いて聞いてね。…貴方は、少し病気になってしまったの。痛いとか苦しいとかはあまり出ないらしいけれど…治療にはとても時間がかかるわ。だから、病気が治るまで…この部屋で療養してほしいの。お母さんが言うこと、わかるわね?』
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