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あの時の、母の強ばった顔。そこで、私は悟りました。ええ、それくらいには聡明だったつもりなのです。きっと、私はとても重い病気にかかってしまったのでしょう。それは、治療にとても時間がかかる――あるいは、治る見込みのない病気なのかもしれない、と。
私はこのままでは死ぬのかもしれない。それでも、母を心配させたくなくて――私は精一杯微笑んでみせたのです。
『わかりました、お母様。この部屋にいればいいのですね。大丈夫です、早苗はいい子にしています』
それが――私が外に出た、最後の日。
以来数年間、私はこの部屋で一人で過ごしてきました。一人、と言っても誰にも会えないわけではありません。お手伝いさんはごはんを運んできてくださいますし、お医者様も診察に来てくださいます。ほかにもお母様やお父様、友達も何人かひっきりなしにお見舞いに来てくれます。こういうと自慢みたいに聞こえるかもしれませんが――私、結構友達は多かったのですよ。クラスの友達もいますし――ああ、お嬢様学校なんて言ったからややこしかったかもしれないですが、ちゃんと共学なんですよ――近所のよく遊ぶ友達もいます。
ポジティブで、お嬢様らしからず広い野山を駆け回る子供でしたから、どちらかというと男の子の友達の方が多かったかもしれません。お絵かきやおままごとより、男の子達と鬼ごっこやドッチボール、野球をすることの方が好きでしたから。
『よ、早苗!元気にしてるか?』
中でも一番お見舞いに来てくれることが多かったのが、小学校のクラスで一番仲の良かった男の子、千夜君でした。中学に上がっても毎日お見舞いを欠かさずに来てくれた、彼。舞鶴千夜君――なんか無駄にかっこいい名前だと思いません?彼のお父さんは大御所俳優さんなんだそうです。千夜、という名前もどこぞの有名な映画のタイトルから取ったんだとかなんとか。
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