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GOOD GLIDER
「お嬢さん、この辺りで良いんですかい?」
少女は、先程の声の青年が操縦する小さな飛行機に乗っていた。
青年は飛行帽とゴーグルで顔を覆っていて少し分かりにくいが、晴れた空と同じ色の髪に、またきっと同じ色の目をしていて、片耳に大きなイヤリングを付けているのが見れる。そんな事よりも彼女は回りの景色に夢中になっていたので、話が聞こえていたかどうかは──
「聞こえてるわ」
「? 誰に向かって話しかけてるんだ?」
「……何でも無いわ。それより、この辺りで大丈夫よ。パイロットさん」
空は清々しい程に晴れていた。
羽がある訳でも無い生き物が飛べているのは、羽が無かったからこうして飛べたらどうだろうと夢見てたからだ。
もうその乗り物が出来てから長く、飛ぶ事が当たり前になっても、その先に辿り着くまで危険を伴う事に変わりは無い。──それは二人の旅も同じ。
青年は少女を飛行機に乗せてあげ、二人は果てしない蒼と白の世界へ旅に出ていた。
白い雲が小さな離島であれば、其処に飛び降りたくなる衝動に駆られるくらいに儚げな世界を描く。偶に渡り鳥が飛んでいるのが見えれば、少女は彼らが見えなくなるまで追い掛ける様に眺める。しかし、そんな飛行機での旅も一時的に終わりを迎える。
「それじゃ、良い旅路を祈ってるぜ。また信号打ち上げて連絡くれよ」
少女は席から立ち上がって、青年の方へ振り向いた。
「……悪い旅路だったら、此処でさよならね」
「ぶっ、物騒な事は云わないでくれよ……」
青年は真っ青な表情を浮かべた。
少女はパラシュートが入っているだろうリュックを背負っているかどうか確認する為か、右手、その次に左手と一度揺らす様に動かした。
「──行って来ます」
「行ってらっしゃい」
それから彼女は中々見せない笑顔を青年に向けた。
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