大いなるクレバス

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大いなるクレバス

 ──少女は地に足を着けると、安堵の息をつく。  しかしその足場はとても良い状態とは言えなかった。  険しそうな山へ自然と運ばれた彼女は、身体と一体化していたパラシュートのロープを外す。それからやっと解放された快感を感じる様に背伸びすると、辺りを見回した。  切り取られた様に急な崖下、冷たい風と共に大きな岩山の中へと誘う様な穴、それだけしか無かった。  視界に入った穴を前に、少女はリュックの中からマッチとランプを取り出す。マッチ箱から小さな棒を取り出して、棒の先を摩擦面に当てて少し強く擦った。 一瞬だけ大きく燃え上がる様に火が点くと、小さく朧気な火に変わり、彼女は直ぐにランプの小窓を開けて、そっと火を灯す。  火の燈ったランプの熱で凍える身体を少し暖めながら、彼女は穴の方へと歩み始めた。 * * *  先が長そうな坑道で、呻く様な声が響く。  大して煩い程でもないが、足を止めた少女はそれに怖れて耳を塞いだ。  彼女のその反応のせいか、呻く様な声は逃げる様に、次第に小さくなっていく。  全く気にならない位に小さくなると、少女は耳を塞ぐのを止めて、再び歩き始めた。 「……上着を着込んでても、場所が場所なだけに寒いわね」  そう呟きながら、彼女は身を少し震わせた。  リュックからひょっこり顔を出した小動物は、その寒さに驚いてまたリュックに隠れてしまう。そんな様子を見た彼女は少し笑って、「凄く寒いからね」と囁くくらいの声で云った。  穴の中は当たり前の様に暗く、歩く道は人が一度其処を通ったから出来た様な、良い状態とは言い難く、行く先はランプの灯りだけが頼りだった。  行く先の出来るだけ広い範囲へ灯りを行き届かせる様に、彼女はランプをこれから通る未知へ差し出した。
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