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その灯りで見せてくれたのは、丸みも全く無く、ゴツゴツとその擬音に合った形の岩石と、他の岩石達との隙間を長い歴史と共に埋めた土壁。灯りで出来た朧な境界線の先も暫くは同じ光景で続いていそうだ。
「……不思議な感覚ね。山というのは登る事が目標になる筈なのに、降るのが目標になるなんて」
彼女は同じ様な景色に飽きる事なく歩き続けた。
* * *
入り口は通ったが、出口は未だ分からない。
見つからなかったら、きっと入り口が出口になるかもしれない。
しかし同じ景色もやがては終焉を迎える。
其処で足を止めた少女が目にしたのは、とてつもなく大きい溝が幾つもある──クレバスだった。
大穴と小穴、そして凸凹の土柱を、長い年月掛けて芸術的に作り出した空間は、高所故の寒さと共に、余計に鳥肌を感じる事だろう。
「……」
少女のリュックの中にロープはある。それを伝えば元の場所に、戻ろうと思えば戻れる。
しかし簡単に戻れるとも限らない。パラシュートの時の様に大胆に落ちてしまえば、元の場所にはもう二度と戻れない事だってある。
その時は未だ現実だった、でも今は過去である時間と同じ様に、どう足掻いても戻る事は出来ない。それでも少女は──
欲しいものがあるから、此処に来た。
輝くものをこの目で見たいと、此処に来た。
輝くものをこの手に触れたいと、此処に来た。
この心の何処かにある空っぽを埋めたいと……此処に来た。
きっと欲張らなかったら、此処まで来ていないと少女は思っている。彼女の優しげな瞳の奥は宝石の様に輝いているけれど、その輝きはとても獣の様に鋭く、綺麗な花の棘の様にとげとげとした心も持っている事を示していた。
心の何処かにある空っぽとは一体、何処だろうと少女は胸に手を当てて確かめようとする。
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