マングローブの森

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マングローブの森

「……」  少女は濡れ鼠になっていた。  どうしてそうなってしまったのかの経緯を辿るとしたら──、  彼女はある日の雑誌を読んで、気になる記事を見つけた。  このマングローブの森に、とある宝石(・・・・・)が眠っているかもしれないという内容だ。それから探しに、マングローブの中を歩いていた。歩きの途中、沼の前で何やら彼女の目を奪うものに出逢ったそうだ。  それに触れたいと彼是手を伸ばしている内に、運の悪い事に沼の中へと転んで濡れてしまったのだ。 「……全部、濡れてしまったね」  彼女のショルダーバッグも濡れてしまい、その中身から昼食に食べるつもりだったサンドイッチやら、幾つかの書類やら本などが水面の上に浮かんでいた。彼女の黄金色の長い髪も少し形崩れてしまった様に濡れて、両端に結んでいた赤いリボンも片方がほどけてしまっている。  そして彼女の目を奪っていたものも、その手に触れられる事無く、見失ってしまった……。  其処へ猫やら兎やら分からない小動物が二匹、彼女を心配する様に寄り添って来た。その内の一匹が彼女のリボンを銜えて、持ち主の元へと運んで来た。 「……ありがとう」  彼女が礼を云って受け取ろうとする前に、もう一匹の赤いリボンを銜えていない小動物が突然、間に割って入る様に沼へと飛び込んだ。盛大な音が響いて、その音に合う水しぶきが彼女に襲い掛かると、少し驚いて片目を瞑った。 「?」  それから彼女は瞑った片目をゆっくりと開いた。  その小動物が飛び込んだ方向の水面の奥で何か光るものを見つけたからだ。  恐らくそれ(・・)に気付いて飛び込んで来たのかもしれない。 「……!」  そして咄嗟にか細い左手を伸ばした。
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