1人が本棚に入れています
本棚に追加
そんなところを彼に見られているのに気付くと、先程までの無表情で綺麗な人形から反転した様に、彼女は少し頬を赤らめた。
そんな様子を見てノアールは笑って、彼女も生きている人間で女の子なんだと感じていた。そして椅子の背に掛けていた茶色いコートへ手を伸ばした。
「……では。今回のお礼は、此処での飲食代と──お探しの宝石についての"手懸り"だ」
彼はコートのポケットから、一枚の紙切れを取り出した。
* * *
「ほんとに今日はどうもありがとう。記事が載る掲載誌が出来た時にまた連絡するよ」
「はい、ご馳走様でした」
インタビューが終わると、二人は喫茶を後にする。
少女はノアールにお辞儀して礼を云うと、雪降る街の何処へと踏み出した。
彼も別の何処へと踏み出そうとするが、未だそんなに少しも離れてない所で、他に言う事をふと思い出した様で「あ」と声を漏らした。少女はそれに気付いて、彼の居る背後へ振り返った。
「あと、宝石の情報も入ったら、ね」
「……」
少女は何も云わなかった。
ノアールは彼女の答えを待たず、軽く手を振りながら、別の何処へと踏み出した。少女はそれを見送ると、行く筈だった先へ振り返って歩き出した──。
「……雲の様に」
ノアールは街の外れでふと立ち止まって空を見上げた。
少女は街のまた違う外れを歩きながら、彼と同じく空を見上げた。
二人はそれぞれ相手に対して抱いた印象を、今も雪降る空に向けて独り言として浮かべた。
「……掴み所の無い子だな」
「……掴み所が無い人ね」
最初のコメントを投稿しよう!