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飛行機は目的地に向かって止まることはない。一見立ち止まっているように見えても、身体を前へ押し進める力から逃れることはできない。本当に止まってしまったら、途端に揚力を失い、私たちはただ落ちていく。鳥のように自由に空を飛べないから少し悔しいけれど、仕方ない。重力ほど平等なものは世の中にないのだから。それを理解することで、私たちは大人になっていく。
それもしても、私はいつから『自分が大人なのだ』と思い込んでいるのだろう。成人の日がそうさせたわけでも、親離れしたからでも、社会がそう求めたわけでもなく。気が付けば、ステレオタイプな社会人としての自分を自分自身が求めていた。
見たことがない場所を見てみたい。夢の中の香りを嗅いでみたい。想像もできない世界に出会えば、想像もできない自分になれるかもしれない。同窓会で石黒くんが皆に話していた海の中の話。碧のサンゴに紅のサンゴ。シャコガイの内側の煌めく瑠璃色。揺らぐイソギンチャクに身を隠すハナビラクマノミと目が合って、私は何を思うのだろう。
雲間より、海底を想う。
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