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片思い①
「みお、美術部の部長になってよ。」
去年、冬休み前、終業式の日。
部活を引退する優里先輩の一言で入部した。
憧れの先輩が推薦してくださった、手前、断る訳にもいかず入部する事を決意した。
はちみつ色の光が差し込む放課後の美術室。
部室は、まるで彼だけの金魚鉢で。
大きなキャンパスは、彼だけの世界が広がっていた。「その中に私も入っていいですか?」
そう言いたかったけど、私のせいで窮屈になってしまいそうで諦めていた。
肌は白くて女の子見たいに睫毛が長い。
木漏れ日のような繊細な笑顔がなんとも言えないほど好きで。
遠くから、彼を見るので精一杯だった。
そんな彼から初めて声をかけられた。
嬉しかった。
嬉しかったけど。
彼がいない美術部に入る意味は、あるのだろうかと思ってしまう。なのに、断る事が出来ないのは‥‥。
二年生になり、二人の新入生の女の子が入ってきてくれた。
にぎやかで楽しい。
だけど、不意に思い出す。彼だけの美術室。
「貴方の世界に私も入っていいですか?」
そう言えたのなら。
心にぽっかり空いた隙間。
大きくは、ないけれど、ささくれを水に浸けたみたいに地味に、痛い。
じめじめした、空気が窓の外から、入ってくる。
そして、しとしと空が泣き出した。
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