嘆きの灰は奪還を誓う

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 ならばいったい何が人々の目を引くのかと言えば、その風変わりな衣装だ。周りはこの地方の民族衣装などに身を包む物が多い中、黒の上下に薄汚れた白衣を羽織り、銀縁のメガネをかけ、便所サンダルをからころと鳴らして歩く。町外れの胡散臭い錬金術師たちが集まるという界隈で歩いているならともかく、真っ昼間の、両脇に露店が建ち並び、買い物客でにぎわう場所でそんな奇妙な出で立ちであれば否が応でも人目はひく。加えて、男が手にしているのは、どう考えても乳幼児用のおしめやおもちゃの類だった。便所サンダルが石畳の上で鳴るのに加え、赤ん坊用の鈴付きのおもちゃがちりちりと音を立てるのだから、目立ってしょうがない。  しかし、男は一向に人目を気にすることなく、ますます鼻歌をにぎやかにして、薄暗い界隈へとつながる路地を曲がっていった。  周りの通行人は首を傾げ、お互い顔を見合わせて、それでも変人ならばそういうこともあるのかと納得するようだった。男は錬金術師たちが住む界隈へとつながる路地を進んで行った。奇妙ではあったが、その行動は大方の予想を大きくは外れなかった。それで周りの者も安心したのだろう。男の姿はすぐに雑踏の熱気によって忘れ去られ、いつも通り、大通りにはにぎやかな喧騒だけが行き交う姿に戻っていく。  だが、通行人は気づいてはいなかった。路地にはすでに男の姿はなく、気配すらもないことに。  あるのは暗い路地の端で、たわむようにかすかな煌めきを映す空間の歪みだけ。それもすぐに、何事もなかったかのようにただの薄暗い路地に戻る。  直後に一人の男が興味本位であとをつけようとしたのだろうか、錬金術街の方に向かおうとしたが、その場に何かがあったなどと全く気付くことはなく、そしてまた、男の姿も見つけることはできず、奇妙に首をかしげていた。  男は一体どこへ行ったのか。     
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