嘆きの灰は奪還を誓う

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嘆きの灰は奪還を誓う

 男は陽気に鼻歌を歌いながら、家路を急いでいた。足取りは至極軽やかで、彼が歩き過ぎるたび、周りを歩く人間の3割ほどは、その姿に後ろを振り返っていた。それでも振り返る人間の数は、大きな街の雑多な大通りであっただけに、少ない方ではあっただろうか。下手な街でなら、衛兵や自警団の人間が飛んでくることもあった。  話を聞いただけではなにを大げさな、と思う者も多いのかもしれないが、あながち冗談とも言えない。  男はぼさぼさの髪を無造作にひとくくりにしていた。それだけならばなんの不思議もない。ただ、その髪色がぼさぼさでも見事な銀髪だった。それでも衛兵が飛んでくるほど人目を引くものではない。男が類を見ない美形であったならば、通りすがりのご婦人たちの目を引いたではあろうが、残念ながら、男はこれまたぼさぼさの無精ひげを生やした、くたびれた中年男だった。     
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