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眠るまいと思いながら、眠りの中へと落ちていく
「杏奈」
自分を呼ぶ声に、目を開ける
「聡…」
「ごめん、杏奈。来るのが遅くなって」
「大丈夫、私は聡の事を信じていたから」
「杏奈、こんな僕を愛し続けてくれて“ありがとう”。それが言いたかった。大切な君を、僕は、ずっと、ずっと守ろうと思った。なのに…」
「もう何も言わないで。お願い、強く抱きしめて」
聡が杏奈をぎゅっと抱きしめる
「聡、愛している」と言おうと思ったのに、言葉が出ない。立ち上がって、声を出そうとした時、目が覚めた。
夢であることは分かっていた。それでも、会えたことが嬉しかった。でも、聡がずっと「過去形で」話していたことが辛かった。
杏奈がソファ-から起き上がり、聡のいた場所に目を移した時
奇跡は起きていた
旅行中、聡のために買って渡したキ-ホルダ-がそこに置かれていた
事故で大破した車の中にも、他のどこにもなかったキ-ホルダ-
あるはずのない、この部屋の鍵の付いたキ-ホルダ-
杏奈は、そのキ-ホルダ-を握りしめながら、聡が本当に来てくれたことに感謝する
「ありがとう、聡。愛している」
先ほど声に出せなかった言葉を、「現在形」で、見えない聡に向かって投げかける
その時初めて、杏奈の目から涙が落ちた。
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