呆然自失

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呆然自失

約束の京都への旅行 それに縋るように あれからも週末は 彼の元へと向う。 朝夕空気が冷たく感じる頃になっても 慶佑の仕事は忙しいまま。 いや 以前よりより忙しくなってきている。 ただ 寝に帰ってくるだけなのだろう。 荒れかけた部屋を片付けながら溜め息をついた。 今日は帰ってくるのか? 毎週末ここに来ていても 顔を合わさず 帰ることもあるのだ。 ふと、プロポーズされた時の言葉を思い出す。 これがすぐに結婚出来ない 私を一緒に連れて 来れなかった理由なのだと 身を持って理解した。 そう、理解したはずなのに… 頭で分かっていても心がついていけない。 仕事だと分かっているのに 高村先生の事を思うと 彼が心変わりしたんじゃないかと だから帰って来ないんじゃないかと 疑ってしまう。 諦めと猜疑心 それでもここに来てしまうのは 意地なのか 義務なのか… 私の仕事も忙しいく余裕がない。 たまに会えても 何故か引きつり 笑顔を作る事が どうしても出来ない。 『いってらっしゃい』 と笑顔で送り出したいのに。 そんな私を見て 彼は困ったような顔をしながらも出ていってしまうのだ。 私は自分の気持ちも彼の気持ちも見失ったまま 今日も 彼の元へ真夜中に車を走らせる。 部屋のドアを開けた途端 違和感を感じた。 微かな甘い香り たたきには 彼の革靴と ハイヒールのサンダル 私は息を飲んで 動け無くなった。 一瞬 思考が停止したが ハッとし頭の中で いろんなパターンを考え 自分を奮い起たせる。 高村先生に慶佑を奪われるものか 靴を脱ぎ そこにある靴を綺麗に並べ リビングに向う。 明かりのついたリビングからはガラス越しに 光が漏れていた。 ドアノブに伸ばす指は冷たく震えて ぎゅっとそれを握り 深呼吸する。 思い切って開けたリビングには静寂に包まれ 二人はいない。 早鐘を打つ様な煩い胸を手で押さえ 息を詰めて寝室に歩み寄る。 半分開いた扉から間接照明のオレンジの光 ベッドに横たわる慶佑の横に 彼女は片膝を付き 長い艷やかな髪でふたりの顔を隠しながら 覆い被さっていたのだ。 ーーーーーっ!
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