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森本「お大事にしてください」
今日最後の診察が終わり森本先生は聴診器を首にかけそのまま伸びをして肩をコキコキ鳴らす。
その様子をPCで入力しながら
ちらりと見て声をかけた。
『お疲れ様でした』
森本「おぅ、 りえもお疲れ」
そう言うと森本先生はギシッと音をたて
椅子から立ち上がると
私が入力しているPC画面を覗きこんだ。
見られているとやりにくいなぁ…
カチャカチャカチャカチャっ
送信っと
『森本先生、そんなに見られるとやりにくいんですけど?』
カルテに点数と自分のサインを書いて
横に立っている先生を見上げた。
先生の視線はPCの画面ではなくなぜか
私の手首をじっと見つめていた。
……?
森本「お前 その手首どうした?」
最初は何を言われているのかわからなくて
小首を傾げながら先生の視線の先に眼を走らせ
アヤトに掴まれた紫色のアザがほんの少しだけ
ブラウスの袖から見えていたことに気がついた。
ーーーーーっ!
ハッとして反対側の手でそこを隠す。
『あ~っこれですか?
昨日家でよろけてドアノブにぶつけて
アオタンになっちゃったんですよ』
我ながら苦しい言い訳だなと思いながら
へへっと誤魔化すように笑うと
森本先生はピリッとこめかみを動かし
私の手首に手を伸ばした。
ーーーーーーーーーーーーっ!
看護師「森本先生ーっ
先程の○○さん
この日入院するの都合悪いそうなんですけど…」
今日先生の担当だった看護師さんが
診察室のドアを開けて入ってきた。
森本「○○さん?
あぁ、じゃあ 何時なら出来そうだって?」
伸ばしかけた手をキュッと握り踵を返すと
看護師さんの方へ先生は近づく。
私はホッと小さく息を吐いて 周りを片付けそそくさとその場を後にした。
森本先生が、戻ってきて問い詰められる前に……
誰にも知られたく無かった。
昨日私に起きた出来事を……
汚れてしまった私を そしてそれを心のどこかで喜んでいる私を
知られたくなかった
親しく好意的に見ているみんなの眼が
軽蔑や同情の色に染まるのを見たくない。
お願い誰も気づかないで……
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