自業自得

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しばらくそうしていて 私が大人しくなると先生は腕を解き私を自由にした。 谷「落ち着きました?」 俯いたまま頷く。 頭の中がぐちゃぐちゃだ。 知られたく無かった腕の痕 子供の様に取り乱してしまったこと そして 先生の腕の中が心地よいって思い その熱が遠ざかっていくのを残念に思う自分 自分で自分が分からない… もう1秒だってこの場にいたくない 『取り乱してしまい申し訳ありませんでした。 お先に失礼します』 そう言って先生の横を通り過ぎた。 谷「待ちなさい」 え? 谷「崎山さんは今日は今から半休ですか?」 『はい…』 谷「じゃあ 一緒に来なさい」 は? 何を言われているのか分からず動けないでいる私の手首を掴むと 先生は裏口へ向かう廊下を進む。 『せっ 先生、今日はっ』 谷「僕は(当直)明けです。」 『でもっ 私、今日予定が……』 谷「無いですよね」 ピタッと足を止めて振り返った先生は手を伸ばし私のマスクを下げ 谷「こんな顔でどこにいくつもりですか?」 痛かったでしょうに……と眉根を寄せ 殴られ切れて変色した私の唇の端を 神経質そうな長い指でそっと触れた 『……どうして?』 谷「マスクしていてもわかりますよ。 少し腫れてます。」 そう言ってマスクを元に戻すとまた私の手首を持って歩き出した。 すらりとした先生の後ろ姿を見ながら 手を引かれるまま歩く。 どうして わかっちゃったの? 今まで誰にも気付かれなかったんだよ? ついさっきまで一緒に仕事していた森本先生も看護師さんも 同僚も 今日は谷先生に会うの今が初めてなのに…
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