自業自得

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あわあわしながら促されるまま マンションの一室に入った。 何のために先生は私を自宅に連れてきたの? さっぱりわからない。 突然二人っきりの状況に緊張した。 先生の家は独り暮らしだというのに とてもきれいでびっくりした。 『先生本当に独り暮らしなんですか?』 谷「忙しくて掃除がままならないので週に2回 業者に掃除にきてもらっているんですよ」 谷「まぁ散らかしている暇もないですけどね…」 と苦笑する。 自宅に帰ってきたせいか 病院で見る先生よりも 柔らかくリラックスした雰囲気だ。 通された広いリビングは 落ち着いたモノトーンの家具に 所々に差し色として深い赤のインテリアが 使われている。 職場で見る先生はいつも礼儀正しく 冷静なんだけれど もしかしたらこの置時計の深い赤みたいに 案外情熱家なのかもしれない… フローリングのリビングを横切って 窓辺に寄れば市内を流れる河が 太陽を反射して眩しくキラキラ 輝いているのが見えた。 ここからだったら先週末にあった花火大会も 凄くきれいに見えたんだろうなぁ… 『先生、この前の花火大会ここから見たんですか?』 ちょうどカウンターキッチンから冷たいコーヒーを持って来た先生に聞く。 谷「はい 見ましたよ。 なぜか森本先生と研修医が二人ほど一緒に来て 散々騒いでいきましたが… あぁ これでマスク外して口元冷やしてください」 『ありがとうございます…』 森本先生と本当に仲良しなんだなぁ… そう思いながら差し出された 手のひらサイズの保冷剤を包んだ ハンドタオルを口元にあてた。 谷「崎山さんは花火どこで見たんですか?」 『私当直だったので音だけ聞きました』 私がそういうと先生は縁なし眼鏡の向こう側で 面白そうに眼を細めた。 谷「音だけって(笑)…… それは見たことになりませんね。 じゃあ来年は崎山さんをここに 招待しますよ」 クスクス笑う先生は何だか楽しそうで つられて私も笑顔になる。 谷「さて、崎山さんここに座ってください。」 テーブルに消毒薬やシップなどを準備した先生は 3人掛けのソファーに座りその横を トントンっと叩いて私を呼ぶ。 ? 谷「何も処置してないですよね。 早めに冷やせば痕も多少マシになってたはずですよ。 今からでも遅くないので 診せてください。」
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