覚えていて

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谷「僕はあなたが好きです」 『先生……』 声が掠れる 知りたくなかった いや、気づいていたからこそ 聞きたくなかった… 言わせたくなかった だって私は……っ 谷「あなたに忘れられない人がいるのは わかっています」 ハッとして顔を上げた。 『知っているなら、どうしてっ』 すっと先生の手が上がり 私の右頬を 温かい手が包み親指が唇に触れた。 谷「シーーーーーーーッ。 聞いてください。 いいんです、返事はいりません。 ただ僕があなたのこと好きだと 覚えていてもらえれば…… 今はそれで充分です……」 そう言うと先生は縁なし眼鏡越しに 穏やかな笑みを浮かべると 握っていた私の手を離し 頬を包んでいた手で優しく私の髪を撫でた。 谷「おやすみなさい。 また明日……………」 遠ざかる車のテールランプの赤が切なく滲む。 どうして先生 言っちゃったの? 貴司の 貴司の事だけ思っていたいのに…… 先生の気持ちを 嬉しい って 少しでも喜んでしまった自分が 裏切り者のように思えて とても苦しかった
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