覚えていて

1/2
3422人が本棚に入れています
本棚に追加
/464ページ

覚えていて

先生に連れられて隠れ家みたいなこじんまりとした京料理のお店でご馳走してもらった。 先生も(当直)明けで疲れているし 私も早く一人になりたかったので 遠慮したんだけれど 谷「ひとりで食べる食事は美味しくないんですよ…」 なんて寂しそうに言う。 そのお店は先生の知り合いみたいで お品書きを見ることもなく 次々と料理が運ばれてきた。 和食が大好きな私。 見た目も美しく 旬のものを使った料理は どれも美味しくて感動した。 特に気に入ったのは 湯飲み茶碗に入れられた蓮根饅頭 旨味たっぷりのお出汁の餡とちょっぴりのワサビを 混ぜ混ぜして食べるのが凄く美味しくて 。 デザートのあぶり餅も絶品で 凄く喜んで食べる私を 先生はニコニコと見つめていた。 谷「気に入ってもらえて良かったです。 また一緒に来ましょう。」 そう言われたけれど… 曖昧に笑ってやり過ごした。 頭のどこかで警鐘がなる。 これ以上 先生に近づくなと お前が欲しいのは貴司だけのはずだと… 『今日はいろいろありがとうございました。 ご飯も凄く美味しかったです。 ご馳走さまでした』 先生が家の前まで送ってくれて 降りる前に 今日のお礼を言う。 『いえ、僕も楽しかったですよ。』 柔らかい笑顔を浮かべ先生は運転席から私を見た。 そんな眼で見ないで… 『じゃあ、おやすみなさい』 先生の視線から逃れるように助手席のドアに 手をかけたとたん ギュッ っと左手を温かい大きな手が包み込んだ。 ビクッとして恐る恐る振り返ると 先生が運転席から身を乗り出す様にして 私を見ていた。 ーーーーーーーーーーーーーーーっ! 谷「覚えていてください ……どんなあなたでも 僕はあなたが好きです」 ああ………っ
/464ページ

最初のコメントを投稿しよう!