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翌朝。
朝食を終えると、私たちは早々に、帰り仕度を整えた。
「もっとゆっくりして行けばいいのに」
母の想いに、「いろいろやる事あるから」と、嘘で固めた笑顔を返す。
もうこれ以上、二人の顔を見ていられなかった。
「それじゃあ……」
立ち上がろうとした時。
「記念に、みんなで写真撮らないか?」
急に思い付いたように、父が言った。
「いいですね」
母は喜んでカメラを持って来ると、いそいそと三脚を組み立て始めた。
「恥ずかしいからいいよ……」
涙がこみ上げるのを必死で抑えた。
「いいじゃない。おめでたいんだから」
カメラを三脚に固定すると、母はセルフタイマーのスイッチを押した。
「ほら、真ん中に入って」
私を押しながら、母が隣に並ぶ。
両親に挟まれ、私たちは笑顔を作った。
セルフタイマーを示す明かりが、チカチカ光った。
「お父さん、お母さん、今までありがとう」
シャッターが切れた。
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